研究内容

研究内容と対象

研究内容と対象 図  構造用金属材料は、自動車やビル、橋梁のような大型建造物から家電や携帯電話、スポーツ用品といった身近なものまで、様々な形で私たちの日々の生活を支えています。金属材料の代表格である鉄鋼材料は、古く成熟した産業と思われがちですが、世界の鉄鋼材料の生産量はここ10年で2倍近くに増加していることから分かるように、今でもダイナミックに成長を続けている産業であり、今後もより優れた新たな材料を開発していく必要があります。
 構造用金属材料に求められる主な性質として、重量物を支え安心して使用できる“変形しにくさ”(高強度)と“壊れにくさ“(高靱性)、複雑形状の部材を製造できる”成形しやすさ“(高延性)があります。これらの特性を支配するものは、結晶粒界や第二相など、微細組織と呼ばれる金属結晶の中の欠陥です。我々の研究室では、先端解析手法を用いて微細組織の形成過程を実験・理論両面から解明するとともに、加工熱処理や添加元素を最適化し微細組織を制御することで優れた特性
を持つ構造用金属材料の開発を目指します。

ナノ炭化物による自動車用鋼材の高強度化

ナノ炭化物による自動車用鋼材の高強度化 図  自動車等輸送機器の衝突安全性の向上および低燃費化や資源使用量の削減のために、自動車車体の70%近くを占める鉄鋼材料の高強度化が強く望まれています。
 そこで、本研究室では自動車用鋼材を高強度化することを目的として、ナノメートルサイズの炭化物に注目し、ナノ炭化物を組織中に分散させた鋼の析出組織と力学特性に関する基礎研究を行っています。従来精度よく観察することが難しかったナノ炭化物を電子顕微鏡や3次元アトムプローブを用いることで、その量やサイズを定量的に調査し、特性との関係を調べた結果、炭化物が微細になるほど強化量が単調増加することが明確になり、ナノ領域での析出強化機構の原理が明らかになりつつあります。

ナノクラスターによる鉄鋼部品の表面硬化

ナノクラスターによる鉄鋼部品の表面硬化 図  歯車やクランクシャフトに代表されるように機械部品の多くの用途では、負荷や摩耗は部品表面に集中するため、部材全体の高強度化に加えて表面を硬化させることが効果的です。最近の部品の高強度化、高精度化の要望に応えるため、従来の浸炭処理に代わり、処理歪がより小さく部材形状を保ったまま表面を硬化できる窒化処理が注目されています。
 本研究室では、窒化処理による組織変化および表面硬度に及ぼす添加元素の影響に注目して調べています。電子顕微鏡を用いて微細組織を詳細に観察することで、窒化による表面硬化の理由が、1〜数原子層の非常に微細なナノクラスタ(特定原子の集合体)が生成するためであることを突き止め、ナノクラスターの生成条件や硬度上昇との関係を明らかにしています。

超強加工による結晶粒超微細化

新規組織解析手法の構築 図  金属材料に非常に大きな塑性歪を付与する超強加工プロセスを用いると、材料の結晶粒径を1μm以下のナノメートルサイズまで超微細化できることが明らかとなっています。超強加工による結晶粒超微細化は合金元素を必要とせず単純な組成で材料の高強度化・高靱性化が可能なことから、低コストでかつ環境負荷の小さい組織・特性制御法として注目されています。
 本研究室では、超強加工による結晶粒微細化技術の確立および超微細粒材の特性支配因子の解明を目的として基礎的研究を行っています。その結果、超微細粒材では、粗大粒径材料で得られている粒径‐強度関係から大きく逸脱する異常な強化が見られることや、本来発現することのない降伏点降下現象が見られること、焼鈍硬化・加工軟化現象を示すこと、など従来の常識では理解できない種々の特異な力学特性を示すことが見出されています。

鉄鋼材料の相変態組織御法の確立

鉄鋼材料の相変態組織御法の確立 図  鉄鋼材料に求められる特性が高度化する中、変態組織の更なる微細化、相変態中の元素分配を利用した母相の安定化、添加元素や加工熱処理条件による相変態速度の制御等、より精緻な組織制御法の確立が求められています。
 本研究室では、核生成における結晶学的拘束や異相界面でのナノスケールの元素分配、添加元素の欠陥への偏析等、これまで明確ではなかった現象を先端解析手法により定量的に明らかにし、熱力学や結晶学、拡散といった理論をもとに、これらの現象を制御する指導原理を確立すべく研究しています。

新規組織解析手法の構築

新規組織解析手法の構築 図  鉄鋼材料は高温で安定なオーステナイトが冷却中に変態することを上手に利用することで微細組織を制御することができます。しかしオーステナイトは室温では存在しないため、相変態挙動を知るうえで不可欠なオーステナイト母相組織を通常の実験手法では調べることができないという問題がありました。本研究室では、せん断型変態組織がオーステナイト相と特定の結晶方位関係を持つことに着目し、電子線後方散乱回折(EBSD)法により得られたせん断型変態組織の結晶方位から、オーステナイト相の方位マップを再構築する方法を独自に開発しました。本手法により、初めてオーステナイト相中の変形組織をも再構築することができるようになっています。